2006/11/16・朝日新聞朝刊
「いじめ自殺、どう報道」
朝日新聞
自殺誘発?報道手探り いじめで「過熱」指摘

 中学生らの自殺が相次ぎ、文部科学省や各地の教育委員会に自殺予告の手紙が次々と届くなか、「報道と自殺」の関係が議論を呼んでいる。メディアは自殺予防に力を発揮する一方、過剰な報道が「連鎖」を生んでいるのではないか、との指摘も多い。影響力を測りつつ、現場では手探りが続く。

 自殺対策に取り組むNPO法人「ライフリンク」は先月30日、ホームページに次のような緊急メッセージを載せた。

 「連日の『いじめ自殺』の報道のあり方について改善を求めたいと思います。昨今の報道が、それに続く自殺を誘発している可能性を否定できないと思うからです」

 先月初めに北海道滝川市の女児の自殺が報じられて以来、月末までに数十件の意見が寄せられた。元NHKディレクターの清水康之代表は「善意であっても、子どもの背中を押してしまう可能性があると注意喚起したかった」と話す。

 福岡県筑前町の中2男子生徒の自殺では、各メディアは遺書の内容を詳報。11月に入って文科省に届いた予告手紙も、一部の新聞は実物のコピーを全文掲載した。

 岐阜県瑞浪市の中2女子生徒の自殺以降、ネットの掲示板などでは「連鎖」について意見が交わされている。NHKと民放でつくる第三者機関「放送倫理・番組向上機構(BPO)」にも「過熱気味では」との意見が寄せられているという。

 欧米には、報道の規模と直後の自殺数は関連し、特に思春期の子どもは連鎖自殺を起こす危険が高いという研究がある。日本でも86年、歌手岡田有希子さんが自殺した後の2週間で三十数件の未成年自殺が起きた。

 世界保健機関(WHO)は00年、メディア向けの自殺予防の手引を公表した=表。予告手紙を公表した文科省児童生徒課は「本人にメッセージを伝えることを優先した。WHOの手引も考慮したが、既遂自殺とは別と考えた」と話す。

 どこまで報じるべきか。メディア各社も、過去の報道を振り返りつつ、頭を悩ませた。

 TBSは文科省に届いた1通目の手紙が自殺を「予告」した11日、報道を控えた。いじめを「金銭トラブル」と報告していた北九州市の小学校長が自殺した際は、子どもの動揺を考慮し、校長の名前は伏せ、本人の生前の会見映像も使わなかった。

 ほかの各社も「思いとどまってもらうことを訴える記事も掲載する」(読売新聞、毎日新聞)、「事実関係の確認は小中学生の証言のみに依拠しない」(テレビ朝日)という姿勢だ。ある程度の指針を定めつつ、「影響を考慮しながら個々のケースに応じて判断している」(NHK、フジテレビ)のが実情だ。

 朝日新聞は、いじめ問題を、昨年12月から続けている「子どもを守る」キャンペーンでも取り上げている。粕谷卓志・東京本社社会部長は「警察や学校、遺族らへの多角的な取材で事実を把握し、過熱報道にならないよう心がけている。こうした現象を防ぎたいと、自殺防止を呼びかける企画も始めた。報道が連鎖を生むとの指摘は謙虚に受け止め、今後に生かしたい」と話す。