7月8日付「毎日新聞」
ひと:清水康之さん=自殺対策基本法成立に貢献したNPO代表

◆官民で取り組む「足場」が出来た−−清水康之(しみず・やすゆき)さん
 札幌市の地下鉄で、線路の向こう側に備えつけられた「鏡」がふと目についた。NHKに勤務していた6年前の春。ホームに飛び込もうと考える人に自分の姿を見せ、思いとどまらせる狙いがあると知る。自殺問題を意識するきっかけだった。98年以降、自殺者が年間3万人を超え、問題は深刻化していた。
 残された子供たちが書いた冊子を読み、会って話を聞いた。親の自殺を止められなかったと自分を責め、他人にも家族の話ができずに苦しんでいる。「自殺者は負け犬」という社会の偏見が彼らを追い詰めていることに胸を揺さぶられた。
 遺児を1年がかりで取材し、番組ディレクターとしてクローズアップ現代「お父さん死なないで」を制作。01年10月に放送され、大きな反響を呼んだ。しかし、国や自治体の対策はいっこうに進まない。どうしたらいいのか。思いこんだら突っ走る性格は、息苦しい管理教育の高校を中退して単身で米国に留学したころと変わっていない。04年3月にNHKを退職し、NPO活動を始めた。
 「自殺は社会問題」と訴え、対策の法制化を目指す署名活動の先頭に立った。10万人を超える署名がわずか1カ月半で集まった。遺族はもちろん、悩みを抱えながら生きる人たちの心の叫びを聞いた思いがする。
 「法律だけで自殺が減るとは期待していない。ただ、官民一体で取り組む足場ができた」。地下鉄の一枚の鏡になれればと思う。<文・玉木達也/
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 ■人物略歴
 東京都出身。国際基督教大卒。04年10月、NPO法人「自殺対策支援センター ライフリンク」を設立し代表に。話すことがストレス解消法。34歳。