6月4日付「毎日新聞」
ストップ自殺:新しい命、生きて 対策法署名、9万3000人に

◆同じ苦しみを持つ人がいなくなるように
 自殺対策の法制化を目指し、NPO法人が始めた署名活動に寄せられた署名数はわずか1カ月半で、目標の3倍以上の約9万3000人(3日現在)に達した。署名に同封された手紙も1000通を超えている。肉親や知人を自殺で失った遺族が「同じ悲しみを味わう人を作りたくない」と訴える文面が多い。署名は近く国会に提出される。国や自治体の責務を明記した自殺対策基本法が今国会で成立する見通しとなったが、自殺が抱える悲劇の深刻さが改めて浮き彫りになった。【玉木達也、写真も】
 署名は東京のNPO法人「自殺対策支援センター ライフリンク」(清水康之代表)が4月17日から開始。8年連続で年間3万人台を記録する自殺者の重みを感じてもらおうと、3万人の署名を目標にした。小さな封筒の中に署名とともに手紙が添えられているケースが目立つ。
 「私は大切な姉を自殺という形で死なせてしまいました」。そう書き出された山形県の男性の手紙は「もし、助けを求めている人がいて、助けたいと思う人がいるなら協力せずにはいられません。私の姉に何もしてあげられなかったことが、今は他人に協力することで、姉も喜ぶのならと思い、ペンを取りました」とつづられていた。「1人でも私と同じ苦しみを持つ人がいなくなりますように」と、祈るような気持ちで最後を結んでいる。
 神奈川県の女性は「私は死の縁から帰りました。今、新しい命を生きています。だから、もっとたくさんの人に、この新しい命を得てほしい、そう祈っています」と命の大切さを訴えている。
 娘を自殺で失った千葉県の女性は「(年間3万人を超える)自殺者その1人ひとりにそれぞれの理由があり、悲しみ、苦しみがあります。また、その数倍もの遺族のつらさがあります。私たち家族は心を込めて(署名欄に)名前を書きました」と記した。
 清水代表は「私たちは社会に追い詰められて自殺をする人を一人でも減らすため、法制化を通じて、社会的な対策の実現を目指している。『法律で自殺が減るのか』といった批判も覚悟していたが、ほとんどなかった。自殺を減らすため、何とかしないといけないと思う人がここまで多いとは。問題の深刻さを改めて実感した」と話している。