『自殺対策基本法』成立に想う

 

    (敬称略)
ライフリンク代表
「つながり」の勝利
(ライフリンク代表 清水康之)
     
自殺対策を考える
   議員有志の会・事務局

民(当事者)が声を上げ、政(議員)が協働の手本
(参議院議員 山本孝史)
「自殺総合対策」への道、さらに連帯して
(参議院議員 武見敬三)
     
「3万人署名」発起人 ◇東京自殺防止センター 西原 由記子
 
  ◇NPO法人・生と死を考える会 杉本 脩子
 
     
「3万人署名」賛同者
◇東京大学大学院 教授 姜 尚中
 
  ◇セントラル総合研究所 代表 八木 宏之
 
     
各界から
◇秋田大学教授 本橋 豊
 
  ◇毎日新聞社会部記者 玉木 達也
 
     
「自殺問題」を世に問うた源流の若者
◇おびえながら始めたが
(埼玉県・斉藤 勇輝)
  ◇人の心も変える法律に
(長野県・久保井 康典)
  ◇自殺減らす一端担えれば
(長崎県・山口 和浩)
  ◇大好きなお父さんに報告
(神奈川県・高木 美和)




「つながり」の勝利

ライフリンク代表 清水 康之
署名を扇千影参院議長へ  法制化を目指してきた中で、最も強く印象に残っている場面がある。
 国会閉会までひと月余りと迫り、法制化に向けた動きが大詰めを迎えようとしていた5月10日の国会議員会館地下通路。半年ぶりに会った山本さんは、私を連れて移動しながら、同僚議員に電話をかけている。「いま事務所におる?これからちょっと伺いますけどいいですか?」
 山本さんとは、国会で自らがガン患者であることを告白し、治療をしながら、ガン・自殺対策に取り組んでいる山本孝史議員(民主)のことだ。
 法制化への協同戦線を張りつつも、私は山本さんの体調が良くないと聞いていたので、用件はいつも電話で伝え、事務所にお邪魔するのを自重していた。この日は、たまたま他の用事が重なって久し振りの再会となった。するとこの機会を逃すまいと、私の心配をよそに、山本さんが私を関係議員行脚に連れ出してくれたのだ。
 根回ししておかなければならない議員がいる。山本さんは、電話をしてはアポを取り、私と一緒に出向いては協力を訴えた。躊躇する議員には「これ(法制化)は私の置き土産だから」と半分真顔で迫った。
 山本さんに「無理しないでください」などと言うのも失礼なことだと私は思った。恩義に応えるためにも、とにかく全力で法制化に尽くそうと誓った。
    ◇
 振り返ると、私たちライフリンクが法制化に向けて動き出したのは今年のはじめ。山本さんの秘書の方が事務所を訪ねてきたときからだ。
 「山本(議員)が法律を作りたいと言っている。去年の5月のようなことができないだろうか」と秘書の方。去年の5月というのは、ライフリンクが主催して行った議員会館での自殺対策シンポジウムのこと。当時参院厚労委のメンバーだった山本さんや山本さんの盟友、武見敬三議員(自民)が、尾辻秀久厚労相(当時)と連携して、後に『自殺対策推進決議』へとつなげてくださった催しのこと。
 今年3月、出来上がったばかりの法案が山本さんから送られてきた。
 「今国会で法制化できるかは分からない。でも目指す価値はある」。電話でそう話す山本さんに、私も「ぜひやりましょう。私たちにできることはすべてやります」と伝えた。
 民間の現場にできるのは「国民の声」を国会に届けること。自殺対策の関係団体に呼びかけて、連名で『要望書』を提出することに決めた。しかし、この際ならばとも考えた。「自殺は社会の問題」と訴えるわけだから、関係団体だけでなく、社会全体をも巻き込んでいけないかと。
 そこで思いついたのが『自殺対策の法制化を求める3万人署名』だった。「年間自殺者3万人」と言葉にすると一語だが、それは私たちと同じように、名前も住所もあり家族や友人がいる「ひとりひとり」が3万人亡くなっているということ。その重みを国会や社会に訴えるため、3万人の署名を集めるのがいい。そう直感したのだ。
 他団体にも連携を呼びかけ、現場で活動する仲間には「発起人」に、私たちを応援してくれていた著名人の方々には「賛同者」になっていただいた。
 マスコミに売り込むため、街頭での署名活動を全国の仲間たちと連携して行った。結果、全国紙や全国放送だけで30回以上も報道され、『3万人署名』の知名度は確実に上がっていった。
 締切近くなると、日に数千という単位で集まるようになり、最終的には、「10万1055人」と、わずかひと月半で当初目的の3倍以上の署名を集めることができた。
     ◇
 「つながり」の勝利──法制化の実現には、山本さんたち『自殺対策を考える議員有志の会』の方々と民間の私たち。それに、議員秘書や官僚の方々、報道関係者など、法制化を共に目指した同志たちとの連携が大きな鍵となった。だから私は、基本法の成立をそう評したいと思う。
 法制化に反対する人たちの中には、「自殺は立派な人間の権利だ」と主張する人がいた。そうした主張自体には、私も反論する気はない。しかし、人間には生きる権利だってあるではないか。自殺対策基本法は、自殺に追い詰められる人を減らし、家族を自殺で亡くした人たちを支えていくための法律なのである。
 自殺総合対策の「足場」として。生き心地の良い社会を築くため。この法律を存分に使い倒していこう。
 山本さん、どうか今後とも、お力添えをよろしくお願いいたします!




民(当事者)が声を上げ 政(議員)が協働の手本

参議院議員 山本 孝史
訴える山本孝史参院議員 「交通事故死者を減らすための施策が展開される一方で、自殺者が8年連続で3万人を超えているのに、総合的な施策がない。自殺対策を総合的に展開するための法律を作ろう」。そう思ったのは、04年の秋のこと。あしなが育英会の玉井義臣会長の一言がきっかけだった。
 「奨学金利用者に、親を自殺で亡くした子どもたちが増えてきた。これまでは、『自殺=うつ病対策』とされ、厚労省が専ら担当してきたが、自殺は社会問題だ。病気としての対応では不十分だ」。
 民主党内に「自殺対策ワーキングチーム」を立ち上げ、精神科医でもある朝日俊弘議員の助力も得ながら、自殺問題に詳しい先生や、相談活動従事者などからお話をうかがった。
 大きく法制化に動き始めたのは、昨年の2月。衆院は予算審議中で参院は開店休業。「何か、調査活動をやろう」と、与党筆頭理事だった武見敬三氏と意見が一致。参議院厚労委で、高橋祥友、中村純、本橋豊氏から自殺問題について意見を聞くことになった。
 そして、5月には国会内で「自殺問題シンポ」をライフリンク主催で開催。尾辻秀久厚労相(当時)は、予定時間が超過しても、遺族らの発言に耳を傾けてくださった。7月に厚労委で「自殺予防の推進に関する決議」、12月には関係省庁連絡会議の発足と、法律よりも現場が先に動いている感じでした。そして悲願の自殺対策基本法が6月15日に成立した。
 これまでも幾つかの議員立法に係わったが、同法は、議員立法成立のお手本のような経緯をたどった。@遺族など当事者が声をあげたこと、A市民団体と国会議員が協働したこと(シンポの開催や署名活動など)、B野党提案にもかかわらず、積極的に関与してくださった与党議員がおられたこと、C「自殺者増加は小泉失政」との政治的批判を乗り越えられたことなどが、大きな原動力となった。
 もちろん、内容的にも素晴らしい。今後とも、同法が期待通りに機能するよう、関係団体の皆さんと一緒に取り組みを続けたい。「いのちを大切にする社会」を目指して、ともに頑張ろう!




「自殺総合対策」への道、さらに連帯して

参議院議員 武見 敬三
 昨年通常国会にて参議院厚生労働委員会が「自殺防止等の対策を推進するための決議」を採択して以来懸案となっていた自殺対策について、今年超党派で自殺対策基本法を成立させることができたことは大きな進歩だと思います。
 日本の社会には、「暖かい連帯意識」が不可欠です。私は、この法案を成立させる働きかけをしている最中に、与野党を問わず衆・参国会議員、またこの問題に一貫して取り組んでこられたNPOやご遺族の方々との間に「暖かい連帯意識」を感じました。これからこの基本法に基づいて、政府と市民社会がより一体となって自殺予防等に取り組んでいけたらと思います。




発起人・賛同者・各界から寄せられた声

東京自殺防止センター 西原 由記子
 30年自殺防止活動をしてきた者にとって、政府が本腰をいれて取り組む道ができて嬉しい。「これから」だと多くの人が期待している。必要な問題が山積している現場の声に耳を傾け、国・民間・学者の横関係を具体的な行動に繋げる努力を惜しまない。基本的人権をしっかりふまえ生きた関係を構築しよう。


NPO法人・生と死を考える会 杉本脩子

 3万人署名まであと5千人と聞いた時には、「ああ、とても無理」と思いました。遺族の方たち、遺族と直接関わっている方たち、ともに複雑な思いがあって主旨をわかっていただくにはあまりに時間が少なかったのです。
 けれども最後の週になって、短いながらも、考える時間を十分とられたという感じで賛同者がどっと増えました。
 顧みられることのなかった遺族の支援が盛り込まれた法律が出来上がり、深い感慨をおぼえています。


東京大学大学院教授  姜 尚中
 人間の顔をした資本主義はあるのか。3万人を超す「自殺者」を出すような資本主義は、それにふさわしいとは言えないはずだ。一日に90人近くの「自殺者」を出すような社会に人間的な連帯などあるはずがない。連帯を取り戻そう、どんな人間も生きられるような社会にしよう。やっとまっとうな声が社会を動かしつつある。これからが本番だ。


セントラル総合研究所代表 八木 宏之
 「やった!」知らせを聞いて思わず叫びました。自殺は個人ではなく社会の問題だと国がようやく認めたのです。皆さんの署名活動が、起爆剤となりましたね。
 経済苦による自殺者は毎年約8000人。練炭自殺を図る寸前の中小企業経営者が私の会社に電話をかけてきて相談に乗ると、生きる希望を持ってくれたこともありました。死を選ぼうとする人が再生できるように、今後もライフリンクの活動を応援します。


秋田大学教授 本橋 豊
 自殺対策基本法が成立し、自殺対策を総合的に推進する法的基盤ができました。腰の重かった自治体や大都市部での対策の進展が期待され、我が国の自殺対策の底上げにつながります。法案成立には10万人を超える署名活動を主導したライフリンクの役割は大きかったと思います。人びとの「つながり」を大切にするライフリンクのこれからの活躍をさらに期待します。


握手の強さにライフリンクの意思が
毎日新聞社会部記者 玉木 達也
 「法制化実現に向けてがんばりましょう」。ライフリンク代表の清水康之さんはさっと右手を出した。こちらもやや戸惑いながら右手を出すと、がっちりと握手された。清水さんに自殺対策基本法案について初めて取材した4月13日。2時間にわたって話を聞いた後、JR飯田橋駅前で別れ際での出来事だった。
 米国の高校、大学での留学経験から、清水さんの握手はごく自然の習慣にも見える。一方で、行政と政治家、マスコミ、一般市民らとの「つなぎ役」を果たす責任感からそうしているとも思える。2カ月後の6月15日に国会で対策法が成立した瞬間、清水さんの握手の強さを思い出した。
 自殺で肉親を失った遺族や遺児のみなさんのほか、政治家や中央官庁の役人の中にも「社会的に追い詰められた末の自殺をなくしたい」との思いを強く持っている人がいた。それらの人々の気持ちが一本につながったため、これほど短期間に法律ができたと思う。清水さんの「握手」で象徴されるつなぎ役「ライフリンク」が、法案成立に果たした役割は間違いなく大きかった。
 私は4月17日の朝刊1面に書いた「自殺対策 新法で『遺族支援を』」の記事を皮切りに、法案成立まで関連記事を18本書いた。取材をし記事にすればするほど、自殺問題がいかに深刻なのかを改めて認識させられた。清水さんは法律で「足場」ができ、これからが大切と強調する。報道も一緒だ。一人でも自殺者を減らすため、息長く書き続けたい。




「自殺問題」を世に問うた源流の若者

 自殺対策基本法ができたが、ここに至る源流には、自殺で遺された側の痛みを社会に対し、実名で訴えたあしなが育英会の遺児学生たちの勇気とうめきがあった。2001年12月、自殺防止を小泉首相に陳情した10人のうち、4人に今回の法制定についての感想を語ってもらった。
清水代表と「自殺問題」を世に問うた源流の若者
おびえながら始めたが
  (埼玉県・斉藤 勇輝)
 初めはたった2人の活動でした。その活動は孤独で、怖くて、おびえながらのものでした。テレビに映る自分を見て、怖くて涙が止まりませんでした。手ごたえを実感することも難しく、まるで雲をつかむようなものでした。
 そんな細い活動が少しずつ輪を広げ、法制化にまでなったことは本当にうれしく思います。ライフリンクをはじめ、多くの人たちが立ち上がり社会を動かした。その活動の一員になれたことは私の誇りです。ありがとうございました。


人の心も変える法律に
(長野県・久保井 康典)
 2000年に自殺によって親を亡くした経験を社会に初めて語った時、僕らは声をあげることしかできませんでした。それから6年、僕らがあげた声をここまでたどり着かせてくれた多くの方々に、心よりの感謝と敬意の念を抱いています。
 自分だけでなく、私は出会った遺族の想いも常に訴えてきたつもりです。だから、僕の出会ってきた遺族の分も含めて皆さんにお礼が言いたい。本当にありがとうございます。社会だけでなく、人の心を変える法律になって欲しいと願っています。


自殺減らす一端担えれば
(長崎県・山口 和浩)
 「自殺者3万人」との新聞見出しも、いまや当たり前のことのようにさえ、とらえられる中で、ようやく国が本格的に対策に乗り出すことは大変喜ばしいと感じる。
 自殺を考え、悩み苦しんでいる人、悲しくも遺され、もがき苦しんでいる遺族、1人でも自殺者を減らそうとさまざまな活動を進めてきた方々にとって、法制化は大きな励みにもなる。
 法制化によって自殺者が激減することはないだろうが、それぞれが自殺者を減らす根拠はできあがった。同じ苦しみを持つ人が1人でも減っていくことを望むし、その一端を少しばかり担うことができればと、いまは考える。


大好きなお父さんに報告
(神奈川県・高木 美和)

 5月13日、新宿の街頭で署名を集める私に、高校生くらいの女の子が「署名します。うちも母が未遂をしたので」と声をかけてくれました。私も彼女くらいのころに父が未遂をし、そして高3の時に本当に逝ってしまいました。
 10年前は社会も私自身も未遂というものをあまり深刻に受け止めていなかったように思います。
 8年連続3万人という現実が人の意識を変え、国を動かしました。悲しい現実も多いけれど、今回の法制化により自殺は減らしていけるのだと今まで以上に強く信じることができました。
 このことを大切なお父さんに報告したいと思います。